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顧客獲得・維持・拡大:成長とレジリエンスのための最適なバランスの実現
最新のSEIレポートからのデータ

インフレや金利の上昇、人員削減、銀行業界の課題など、テクノロジー業界は2023年に大きな不安定さに直面しました。
それでも、新たなデジタルトランスフォーメーションの取り組みが減少し、経営者が成長の最適な方法を模索する中で、ある企業群がS&P 500を大きく上回る成果を上げました。それが、継続的な成長をもたらすさまざまなマネタイズモデルを採用する企業です。Zuoraのサブスクリプション・エコノミー・インデックス(SEI)レポートによると、これらの企業は2023年に10.4%の収益成長を遂げており、S&P企業の6%を大きく上回っています。
では、なぜこのような結果となったのでしょうか。サブスクリプション型価格設定を導入する企業が増え、商品やサービスの選択肢も拡大する中、専門家は消費者の「サブスクリプション疲れ」について企業に警鐘を鳴らしています。それにもかかわらず、継続収益モデルは依然として大きなビジネスインパクトを生み出し続けています。
SEIは、継続収益型マネタイズモデルを活用している600社以上のビジネスボリュームの変化を測定しています。Zuora Billingサービス上の匿名化された集計データおよびシステム生成アクティビティで構成されるSEIは、進化するマネタイズにコミットする企業へのインサイトを提供します。これは、企業が自社の価値観と顧客の価値観をどのように一致させ、それを収益化に結び付けるかを示しています。
2023年のSEIレポートでは、これらの企業もテック業界全体同様に顧客獲得の課題に直面しましたが、彼らのビジネスモデルは顧客維持やアカウントごとの収益拡大を容易にしました。
適応力と顧客中心主義が求められるマクロ環境の中で、継続収益モデルは一度限りの取引ではなく、長期的な顧客関係にフォーカスすることで本質的にレジリエンスを発揮しています。
この仕組みを理解するために、データを詳しく見ていきましょう。
顧客獲得と維持に関する主な調査結果
SEIレポートに掲載されている企業は、次の3つの方法で継続的な成長を実現できます:
- 新規顧客獲得(アカウントの増加)
- 顧客維持(解約率の逆)
- 拡大(アカウントごとの年間収益の増加)
アカウント成長という最初の指標を見ると、SEI企業は2023年に減速を経験し、顧客獲得率はQ1の平均2.22%からQ4には1.12%へと低下しました。この点では、彼らも広範な経済状況を反映しています。

しかし、SEIに含まれる企業は解約率も低下しました。「大規模な解約時代」という予測に反し、2023年には顧客維持率が大幅に改善し、四半期ごとの平均解約率は2019年以来もっとも低い水準となりました。

最後に、SEI企業は低い解約率を活かし、アカウントごとの年間収益(ARPA)を増加させることに成功しました。ARPAは過去20四半期にわたり緩やかな上昇傾向にあり、2023年のSEI企業におけるARPA成長率は1.5%となり、2022年の1.29%から上昇しています。

これら3つの傾向を総合すると、継続収益型ビジネスモデルを持つ企業は、2023年に新規顧客の獲得が困難な中でも、既存顧客の維持とアカウントごとの収益拡大によってその課題を補うことができたことが分かります。
数字の裏側:なぜ維持と拡大が重要なのか
現在の経済環境においてビジネスリーダーが得るべき重要な示唆は、「成長が重要」である一方で、その実現には新規顧客よりも既存顧客に注力することが重要という点です。なぜなら、新規顧客の獲得は既存顧客の維持よりもコストがかかるため、厳しい局面での成長は既存顧客の育成と拡大によって実現できるからです。そして、柔軟なマネタイズモデルは、まさにそれを可能にする絶好の機会を提供します。
ほとんどの年間経常収益(ARR)成長は既存顧客からもたらされます。Zuoraサブスクライブド・インスティテュートとBoston Consulting Groupによる2023年のレポートによれば、年間収益が5億ドル超のアカウントにおいては、既存顧客がARR成長の84%を担っています。これらのアカウントは、最も高い維持率と拡大率を誇り、新規ビジネスへの依存度が比較的低いことが特徴です。

データはまた、成長の主な要因のひとつが本質的に柔軟性の高い従量課金型プライシングモデルの拡大であることも示しています。ハイブリッド型従量課金モデル(使用量に応じて後払いされる収益と、前払いで請求される継続収益の両方を組み合わせたモデル)を採用する企業は、Zuora/BCGの調査において、前年比ARR成長率で他のすべての企業を上回りました。
また、他のデータによると、消費者の80%が従来の定額サブスクリプションよりも柔軟な価格設定の階層型モデルを好んでおり、そのようなオファーが解約防止に役立つことが示されています。

成長を支える力に加え、従量課金型プライシングの人気急上昇は、生成AI技術の台頭と密接に関係しています。生成AIモデルは使用量に応じて変動する限界費用を持つだけでなく、人間のユーザー数を減らすことも可能にするため、ユーザー単位のサブスクリプション価格では価値を十分に捕捉できないという課題があります。
生成AIの拡大に伴い、従量課金型プライシングモデルは、顧客維持や拡大の観点から、今後ますます重要な役割を果たすでしょう。
企業が顧客維持率を高める方法
SEIレポートは継続収益モデルの有効性を強調していますが、単に新たなモデルを導入して顧客の反応を期待するだけでは十分ではありません。消費者は価値を感じるサブスクリプションは継続しますが、期待通りでなければ解約します。そのため、継続的に価値を提供することが顧客維持の鍵となります。
つまり、顧客体験を定期的に評価し、状況に応じてサービスや商品を調整する必要があります。多くの場合、当初契約した内容を超えるサービスや商品を提供することが求められます。例えば、顧客が予算の制約を感じている場合は、より柔軟な価格設定や請求オプションを追加することでニーズに応えることができます。
また、顧客が解約する代わりとなる選択肢を提示することも有効です。たとえば、プランの階層変更や請求頻度の変更、定額制から従量課金制への切り替え、一時的なアカウント休止などが挙げられます。
Zuoraでは、このような顧客中心のフィードバックループを通じてマネタイズを継続的に進化させる戦略をトータル・マネタイズと呼んでいます。トータル・マネタイズは、顧客の需要変化を認識し、それに応じて価値を創出・収益化していくエンドツーエンドのプロセスです。
トータル・マネタイズを導入することで、顧客獲得が停滞している時期でも、企業は顧客を維持し、ARPA成長率を拡大する柔軟性を得られます。これこそがSEI企業がS&P 500を上回る成長を遂げ、レジリエンスを発揮する理由です。厳しい局面での成長には既存顧客の育成と拡大が不可欠であり、SEI企業が採用する継続収益モデルこそが、あらゆる市場でベストインクラスの成長を実現するための顧客維持の道標となっています。
多様なマネタイズモデルを活用した企業の成長とレジリエンスについてさらに詳しく知りたい方は、SEIレポート全文をご覧ください。
著者について詳しく見る

マイケル・マンサード
EMEAチェア サブスクライブド・インスティテュート
Zuora サブスクリプション戦略 プリンシパルディレクター

ヤン・トゥタン
CEO兼創業者
Black Winch
サブスクライブ・インスティテュート
Subscribed Instituteは、Zuoraが専門に設けたシンクタンクで、研究、コンテンツ、イベント、アドバイザリーサービスを通じてビジネスリーダーのコミュニティを育成し、サービスを提供しています。Subscribed Instituteのストラテジストは、お客様が繰り返し利益のビジネスモデル成功に向けた戦略的かつパーソナライズされた道筋を描き出し、内部能力を構築し、加速度的なユーザーシップへの旅をナビゲートするのを支援するためのリソースです。
